是枝祐和作品における食卓表現

『海街daiary』公開記念コラム 
是枝祐和作品における食卓表現.

例のごとく長いコラムになるが、先日観た『海街daiary』の興奮が冷めやらないので、思うがまま書き綴ろうと思う。


 

 




 

 

 

例のごとく長いコラムになるが、先日観た『海街daiary』の興奮が冷めやらないので、思うがまま書き綴ろうと思う。

 

是枝祐和作品における食卓表現.jpg

 

ところで、食卓表現といって僕が真っ先に思いつくのは、向田邦子の小説である。
 飛行機事故で亡くなったこの女性作家の小説は、スリリングな会話や小道具を効かせた演出、

老獪ともいえるほどの巧みな構成があって、エンターテイメント小説としてもゾッとするほどの面白さがあるが、

彼女の小説のその本質は、男である自分には永遠に理解することができない

『女性性』というものにあるのではないかと思う。

 ちなみにこれは余談だが、この感覚はCharaという女性ミュージシャンの音楽を聴いたときにもよく感じるもので、

歌詞だけでなくメロディーも含めて、まるで女の子にしか解読することが出来ない暗号のようなものを聴いている

ように感じるあの気持ちと、近いものがあるのではないかと思う。
 

向田邦子は彼女に関する料理本が出ているくらい料理が好きだったという事もあり、

そうした女性性のようなものが浮かび上がる男女間のやりとりは、食卓のシーンで表現されることが多い。

 一見、普通に見える静かな食卓シーンの背後にざわめく激しい感情表現。
 

 僕の敬愛する爆笑問題の太田光がNHKで紹介していたこともあり、マイ・ベスト・オブ・向田邦子は、

ベタではあるが『阿修羅のごとく』である。向田邦子が原作を書いているこの『阿修羅のごとく』は、

NHKでドラマ化されたのち、故森田芳光監督が映画化しており、僕はその映画版しか拝見していないが、

エンターテイメントとしてはもちろん、食卓映画としての魅力も大きいと思う。
 

 大竹しのぶと黒木瞳、深津絵里、深田恭子が4姉妹として登場するこの映画は、上述の女性性の

ぶつかり合いの場にやはり食事シーンを多く用いていて、天ぷらそばやお茶漬け、鰻やラーメンなど、

様々な料理が登場するが、驚くべきはそのほとんどすべての食事シーンにエピソードが付随してくるということである。
 特に驚嘆すべきは冒頭の鏡開きのシーンで、4姉妹そろって揚げ餅をつくるシーン。

そこで何気なく交わされる会話や仕草で、4姉妹の関係性や性格描写を全て示すという情報量の多さとその手際である。

冒頭の数分でもっていかれる。

 

 

 さて。4姉妹と聞いて最近公開された『海街daiary』という映画を思い浮かべた人も多いのではないだろうか。

 カンヌ国際映画祭にも出品されて話題になっていたのでご存知の方も多いと思うが、広瀬すず、夏帆、

長澤まさみ、そして綾瀬はるかが 

 

海街ダイアリー2.jpg

 

(この4人が1つの画面の中に納まっているという事実だけで僕は激しく悶絶しました)

4人姉妹として登場する是枝祐和監督の最新作である。

 

 世界的に評価の高いこの是枝監督もまた、食卓シーンに力を注いでいる一人である。

 例えば、ひと作品前の『そして、父になる』では、出産時の取り違えにより血のつながらない家庭で

育った2人の少年が、ことの発覚によって実の両親の元へ戻り、新しい家族の中でぎこちなく食卓を

囲むシーンが印象的だ。同じ食卓を囲んでいるにもかかわらず、腹を割り切れていないこの絶妙な距離感が、

食事シーンの中で見事に表現されていると思う。


 ダッチワイフが主人の愛情ゆえに生命を得るという、是枝作品の中でも異色作『空気人形』。

板尾創路扮する主人がダッチワイフに今日あった出来事を話しかけるという奇妙なシーンも、

板尾創路とダッチワイフが食卓を囲むことで、いつもこうしたことが当たり前のこととして行われているのだという

日常感の演出=ダッチワイフへの愛情の深さの演出に食卓シーンが一役買っているといえる。
 

 そして、マイ・ベスト・オブ是枝映画『歩いても歩いても』。お盆に実家に集まる家族の1日を描いただけの

言ってしまえばささやかな話なのだけど、話が進むにつれ少しずつこの家族がどういう家族なのかということが、

晩御飯の準備や、その食卓を囲む中で次第に明らかになっていくという、ミステリー的要素もある、本当は怖い家族映画。

 

 特に樹木希林が怖い。次男役の阿部寛の少年時代のエピソードと共に登場するトウモロコシのかき揚げが

なんとも旨そうで、観返してみるとそれほど食事シーンが多いわけではないが、僕の中では、

食卓映画と言えば真っ先に思い浮かぶ映画の一つである。

 

 

 からの最新作『海街daiary』である。

 

海街ダイアリー.jpg

 

とにかく食卓シーンが非常に多い。っていうか、今までの作品で1番多い。

 そして、上述の向田井邦子同様ほとんどすべての食事シーンに大切なエピソードが盛り込まれていて、

向田邦子以上に伏線のためのアイテムとして使っている印象も強い。これが上手い。

 特に生シラスとアジフライと梅酒の3つは、この作品の中でもとても重要な要素として機能している。
 

向田邦子顔負けの、言葉以上の意味合いを含むようなスリリングな会話劇も、

こうした食卓を舞台に繰り広げられ、想像力を常に刺激されながら映画に集中させられるし、

ほのぼのムービーと思って油断して観に行くと驚かされるのではないだろうか。
 

 個人的には、人が生きているだけで、あるいは幸せになろうとするだけで、

そのことが誰かに与えてしまう呪いのようなものについて、深く考えさせられるものがあった。

 

 映画を観た後の興奮状態で、考えがまとまらないままとりとめもなく駄文を書きなぐってしまったが、

そういうわけで、これから『海街daiary』を観るつもりの方には、できれば『阿修羅のごとく』と共に

食卓シーンに注目しながら観てもらいたい。

 

 それでは次回の予告。僕がこうした食卓シーンに注目して映画を観るようになるきっかけとなった、

福田里香さんというお菓子研究家が提唱している『フード理論』というものがあって、この仮説がとても興味深いので、

次回のコラムで紹介しようと思います。

 

それではまた次回『なぜごろつきはいつも食卓を襲うのか? フード理論概論』で。

 

donzoko7.jpg

 

SAKURA スーシェフ 石橋
 

 

<  前の記事   |   記事一覧   |   次の記事  >

 

□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■
Vinoteca SAKURA
ヴィノテカ サクラ

 

〒231-0011
神奈川県横浜市中区太田町4-47
コーワ太田町ビル1F
TEL/FAX.045-650-5450

 

営業時間. 17:30~3:00 (LO 2:00)
祝日営業時 17:30~24:00 (LO 23:00)

 

定休日.日曜・祝日(一部、特別営業の祝日もあり)

 

HPもご覧下さい!!
http://vinoteca-sakura.jp/

 

フェイスブックやってます! 『イイネ!』ボタンをぽちっとお願い致します。
https://www.facebook.com/vinoteca.sakura

 

ツイッターもどうぞ!
https://twitter.com/vinoteca_sakura

■□■□■□■□■□■□■□■□■□■